気が付かれなかった取り替え子

ここは、とある人物の出来事が手記として現れる隙間の世界です

お酒

 十八歳になる前、十八になったら学習保険が下りて両親に金が行くので、そうしたら死のうとしていた。

 今から思えば別に十八歳を待たなくてもよくね? という気もするのだが、その時の私は十八で死ぬに拘っていた。

 予定していた死ぬ方法は、ドラマとかでありがちな方法だ。

 しかも、小学校の頃保健室通いをしていた時に保険の先生に教わっていたある補助に当たる方法の原理も聞いていて、それも使い確実にヤル気満々だった。

 しかしこの方法、恐らくすごく痛い。

 私はリストカットの常習犯だが、別に血が好きでも痛みが好きでもない。

 なので私は痛みをあまり感じない方法として、お酒を大量に飲む事に決めた。

 それを決めたのはテレビでやっていた歴史系番組の中で、生贄に選ばれた少女がアルコール度数が高い酒を飲んでから殺されるのだが、死ぬ前に酒を飲むのは痛みを緩和する為では? と話されていたからだ。

 そして私の両親は、私が未成年でありながら酒を飲むのを止めるという事はしなかった。

 むしろ果実酒作りたいから材料買ってきてって言えば買ってきて私に管理を任せたし、父親の酒も隠される事はなかったし、『正月に子供が親戚から酒を飲まされて二日酔いで~』って感じの、特に母親が軽いノリの人だし、未成年飲酒公認の親だから手軽な麻酔としては好都合だ。

 

 そして私は十八になる数年前からベロベロに酔っても動けるよう、少しでも酒に慣れておこうと飲み始めたのだが、念願の自殺は怖気付いてできなかった。

 まぁ、自傷と自殺未遂はその後も何度かしていたが。

 

 そして時は流れ、就職活動をする為に就労移行支援に通い始め、就業支援センターのワーカーと話している時、酒を二十歳になる前から飲んでいた事を話したら、両親はそれを知っていたかとか、両親はお酒を隠すとかしなかったのか? とか聞かれた上、アルコール依存症になった事ある前提で話しを進められた。

 

 私は結構飲んでいたと記憶しているのだが、気付かずになっていつの間にか治ったとかでなければ、アル中にはなっていない。

 その事を説明すると、ワーカーは未成年の飲酒でアルコール依存症に陥る人が多いと教えてくれた。

 

 それから数か月後、スーパーのレジで『未成年にお酒を売らない理由』を見て、ふとワーカーとの会話を思い出し、私がアル中にならなかったのって、たまたまなんだろうなぁ。となった。