気が付かれなかった取り替え子

ここは、とある人物の出来事が手記として現れる隙間の世界です

子供の頃の悪癖

 私は幼稚園くらいから、ある悪癖があった。今でも若干『それ』はあるが、これは既に悪癖ではなくなっている。

 ちなみに、どうやって『それ』を覚えたのかは定かではない。見て覚えた、とかではないと信じたいが……。

 

 しかし、この悪癖が関係する出来事なら今でも覚えている。

 あれは幼稚園の頃、私は布団の中でうとうとしていた。ほとんど眠っていたと思う。

 そんな中で、テレビのニュースが聞こえていた。

 ――その頃私は2部屋しかないボロイ家に暮らしており、家族で川の字になって眠る部屋の境目にテレビが置いてあった。

 なので親がテレビを付ければ、イヤホンでもしない限り音が聞こえてくるのだ――

 そのニュースでは子供のSOSサインについて話されていた。

 内容は「子供が自分の体に触るのは、寂しいからで~」みたいな感じだったと思う。

 そして母親の声がした。

「私達も気を付けなくちゃね」と……。

 それを聞いて私は安堵した。何故なら、私はその頃幼稚園でいじめに遭っており、ストレスを感じている日が多かったからだ。

 そしてテレビで言っている『自分の体に触る』とは、私の悪癖の『それ』の事だと思ったのだ。(実際は別の事を指している可能性がある)

 加えて家も狭いので隠れて何かできる様な状況でもない。

 私はあまり音が出ない様、見られない様に悪癖を発動させていたが、隠しきれるはずがないだろう。

 ならば両親は、私の悪癖を知っていて当然のはずだ!

 

 ……ある程度は脚色しているが、ほぼその通りに思っていたと思う。

 もちろん、それは一部、あるいは全て夢だったかもしれないし、子供の頃の記憶なんて書き換えられやすいとは思うのだが。

 

 ともかく、その時私は両親が気が付いてくれれば辛さから逃れられる。両親ももっと優しくしてくれる。

 と思っていた。が、そんな事を思っていた私は馬鹿だ。

 いや、子供の時だから仕方が無いが、私の両親は『気が付かない』スペシャリストだ。

 ただ、父親の方は気が付いている可能性はあった。母親より音などに敏感なので。

 しかし彼はそれを口に出す事はないし、口にした所で対策なんてできない。

 多分あの二人は、発達障害と呼ばれる人達だったのかもしれない。

 だから当然、私の暮らしは何一つ変わらなかった。

  

 そして、そういう事を思い出すたび虚しくなる。

 どうしようもなく、とてつもない虚しさが私の中に広がっていくのだ。

他人を変える事はできない

 点字入門書を支援事業所に預けた。私はこの本をもう何年も見ていないし、今後も使う用がなさそうだからだ。

 元々この本は、父が緑内障でいずれ目が見えなくなると知った時に購入した物だ。少しでも父の役に立つことをしたいという思いから。

 とは言っても最初ざっと読んだだけで『いずれ使う日が来た時に十分に使おう』なんて思ってほぼ放置していたが。

 だから本来の目的を考えれば、もっと早くに手放しておいてよかったのだ。

 あの人の役に立とうだなんていう発想自体馬鹿げているのだから。

 

 私の父は、障害者を「何もしなくてもお金がもらえて羨ましい」と言い、父親である事を盾に意見を押し付け、間違った事をしてもけして謝らず、そして人の気持ちを考えて行動できずに自分がされて嫌な事は他人にするという、多分よくいる昭和の親父だ。

 そして少なくとも今の私は、そんな相手に尽くそうとする気持ち自体が必要ないと感じている。

 第一、年も年だし点字を覚えるのは無理だろう。しかも相手はあの父親。教えたら教えたで、普段の言動はすっかり棚に上げて「有難迷惑」とか言ってきそうですらある。

 

 私はいつか分かってくれるだろう。こうすれば嬉しいし、嬉しい事は他人――そう、私にもしてくれるだろうと、娘でありながら彼女や妻や母かの様に父の事を知ろうとしたり、私がやってもらって嬉しいという事は積極的にやってきたが、それはストレスしか生まない事だった。

 相手は、自分を助けた相手が助けを求めてきても、見て見ぬ振りができる人だ。

 その理由は「どうしたらいいか分からないから黙っていた」かもしれないし「相手がどんな状況であっても、生きて行くって自分で何とかするって事だがら、手助けは相手の迷惑になる」かもしれないが、ともかくそういう人だし、「見返りを求めるな」と言う人でもあった。

 

 あの頃の私に言いたい。

 私は彼の子供であり、彼女や妻や母ではない。

 彼がこの性格故か、目の前の相手が自分の子供だという事を忘れているような言動を取る時であっても、私まで彼の子供である事を忘れないでほしい。

 そもそも彼は、私が普段何気なくする気遣いや、他人の気持ちを考えて行動する。という行動すら取れないのだから、何かを求めるのが間違っている。

 そして、他人は変える事ができない。もし変える事ができるのであればそれは自分自身だ。

人間嫌いで中途半端な存在

 この世界……この国に、だろうか?

 ともかく、この社会において私が無理なく生きていけるスペースはほとんどないんだろう。

 私は人間を嫌い、憎悪する。それは他人と関わる度に強くなっていく。そんな事が何度も繰り返されているからだ。

 他人という存在は私にとってストレスで、そのストレス下に居続ければ鬱病の症状やもっと危険な症状が出てくる。困った物だ。

 

 私は一応病気らしいがよく分からない。今現在の担当医も「よく分からない。しいて言うなら神経症」と言っていた。

 ちなみに、精神医学は検査をして明確に病名や悪い所が分かる物でもないし、別の医者からは今までに、統合失調症パニック障害適応障害ADHDなどと言われてきた。

 ……溜め息しか出ないが、病名なんて彼らにしてみたら大して気を配るべきポイントではないのだろう。処置の仕方も。

 そう思うしかない。

 

 何はともあれ私は病気かどうか分からないが、一見すると障害者には見えないので障害者が利用する施設を使っていると「病気じゃないでしょ?」などと言われる事もある。

 利用者や外野から言われるきりだが。

 しかし、私は私が病気であるかどうか分からないけど、少なくともまともにこの社会でやっていけるならば、こんな施設は使わない。

「あえてストレスになる様な(大した金にならない、場所によっては金がかかる)施設、好き好んで使いませんよ。常識的に考えて」

 といった感じだが、あの人達は気が付く事もなく、自分の言った事も直に忘れるんだろう。

 まぁ、健常者に見られるって優越感に浸れるから、いいじゃん?

 と思えればいいのだろうが……。

 

 

 私にはまだほんの少しだけ、できる事なら社会に出たいという気持ちがある。

 しかし、『人間が嫌い』という感情が消えてなくならない限り難しいと思っている。

 それこそ、(場合によっては何キロも先の)針の穴に糸を通すような途方もない事の様に思える。

 そんな作業を何年も行えるほどの気力が私にあるとは思えないし、もう折れかかった――というか、一度折れてしまった心では無理なのでは? という感情が強い。

 

 障害者らしくない障害者の私には、どこにも居場所はない。

 健常者らしくない健常者の私にも、どこにも居場所はない。

 

 そんな言葉しか浮かばない。

一番古い記憶

 私の一番古い記憶は、赤ん坊の頃に計りに乗せられた記憶だ。

 

 そこには私以外にも赤ん坊が沢山居て、私は大人に持ち上げられて計りの上に載せられた。

 計りがグラグラ揺れて、不安定で怖かったのを覚えている。

子供の頃の夢

 幼稚園の時、誕生日のたびに聞かれた「将来の夢」は、いつも適当に答えていた。

 あの頃は特に大人になったらなりたい事なんてなかったし。

 

 ちゃんと、将来の夢。という物が出てきたのは小学校高学年くらいからだ。

 私は主婦になりたかった。

 私と、旦那さんと、子供達で一緒に暮らす。

 何にもなくていいし平凡で構わないから、そんな家庭を持ちたかった。

 

 小説家にもなりたかった。

 それは本が好きだから。という、よくあるらしい理由ではなくて、お話を頭の中で考えるのが好きだから。という理由だったけど。

 

 だけど、どちらの夢も私には叶える事ができないと知った。

 気が付いてしまった。

 嫌でも痛感してしまった。

 

 だから私は諦めた。

 

 

 ただ、BBSを見ている時に『子供の頃の夢はまるで呪いだよ。諦めたくても諦められない』

 なんてレスを見た事があるけど、確かにそうだな。と今でも時々感じる。

 

 

 でも、幸か不幸か叶った将来の夢もある。

 それは『遊び人』だ。

 本当の意味での遊び人ではないし辛い記憶が多いけれど、見方を変えれば私は適当に、だけどちょっとした遊び心と本心で言った『遊び人』になったと言える。

子供の頃に1度だけ見た夢

 幼稚園の頃、ある夢を見た。

 

 私は夢の中で、家の近くの場所に立っていた。

 そしてこう思ったのだ。

『○○ちゃん(私の名前)は可哀そうだな。宇宙人に取り替えられちゃったのに、あの両親はその事に気が付かなくって』

 と……。

 

 その夢はたった1度だけ見た子供の頃の夢にも関わらず、今でも覚えている。

 そして私が20代頃だったか、ある事を知ってしまった。

 取り替え子と言われる現象が言い伝えられているという事を。

 

 私が見た取り替え子の話は、確かこんな感じだ。

 妖精が人間の子供を誘拐し代わりに妖精の子供を置いていく。

 しかしその事に気が付いた親は妖精が驚く様な突飛な事をして、子供を取り返す。

 

 

 確証なんてない。そもそもあの夢は、子供心に自分への関心が薄い両親に対する気持ちが表れた夢だと思っている。

 だけど、もしその気持ちが夢に現れたなら『宇宙人』と言う相手は両親の方ではないだろうか?

 だとしたら、もしかしたら私は本当に地球外生命体によって交換された偽の存在ではないのか?

 それに、あの両親は実際に取り替えられていても気が付く事はできないだろう。

 母親は子供の些細な変化に疎く、父親は例え変化に気が付いても、口に出して伝えようとしないから。

 

 と、そんな事を考えてしまう。

 

 ただ、例え私が地球外生命体で偽の存在であっても、私の仲間と言える地球外生命体は私の事を実験道具程度にしか思っていないのだろう。